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雪原の大賢者 ーアデン戦国記異聞録ー 

      2-2

 

 早朝、まだ朝日が昇らない時間帯に貧困街のとある一角を守護部隊が駆け付けていた。六人で編成された部隊がひとつ、さらに加えて一人の精悍な若者とオリムの姿があった。

 少し酒臭い浮浪者が慌てて「路地でものすごい火柱が燃え上がっている」と言ってきたので、今夜の当直だった部隊と隊長が急いで現場へと向かったのだが、奇妙な事に火柱は何処にもなく、何かが燃えた形跡さえも残ってはいなかった。だが、確かに火柱はあったと通報者が言い張って止めないので、ある種の幻術などの可能性も考慮して隊長が知り合いの魔法使いを呼んだ。それがオリムだったのだ。

 来るなり少しだけ眉を寄せたオリムだったが、特に文句も言わずに現場の検証を始めたのは、呼ばれた理由を予め聞いていたからである。

 「しかし、ここであなたに逢うとは思いませんでしたよ」

 注意深く現場に視線を注ぎながら、背中越しに隊長に声をかける。

 「エルフの森の一件で世話になっておきながら、またお願い事ってのも言いにくかったんだけどな」

 バンディ・カーグという青年がオリムと共に解決したエルフの森での怪事件はアデン王国の中でもごく一部の人達しか知らされてはいない。だが、ケント城の城下町を守る自警団の若者だった彼が持ち前の剣術で見事解決へ一役買った事で、アデン王国直属の騎士団入りを果たしたのだ。もっとも、彼自身はそれを望んだわけではなかったようだったが。

 「適当に人生やっていければよかったんだけどな。さすがに騎士団ってのは堅苦しくて、代わりに外回りを志願したとこだったんだが、その初日にこれさ」

 「なるほど。あのエルフの女性とはどうなったんです?確か、シャーリィとか」

 言葉ではなく、両手を広げる仕草で返事をしたカーグを見て、なんとなくオリムは察しがついたようだった。

 「とりあえず、残されている気配や魔力は何もありません。魔術の罠が仕掛けられていた形跡もなし」

 周辺に視線を走らせながら、それでも何かがあるのではと探るオリムの様子からも、カーグには手がかりらしいものが見つからないのはわかった。

 「そうか、無理を言って出てきてもらったのにすまなかった。埋め合わせは今度するよ、俺のアデン王国着任祝いも兼ねてさ」

 そう言って、カーグは守護部隊に戻る旨を伝えた。オリムはもう少しここに残ると言って辺りを見渡していた。

 本当の事をいえば、オリムは魔法が使われた痕跡に気が付いていたが、カーグには虚偽の報告をした。その理由は簡単なものだ。

 ー  カスパーがここで魔法を使った。一体何があったんだ・・・。

 ふと、あらぬ方角から感じた気配にオリムが振り向く。

 その視線の先、まだ捉えることができないところから感じ取ったそれは、幾度か経験したことがあった。

 「これほどの負の魔力。なぜ今まで気が付かなかった?」