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雪原の大賢者 ーアデン戦国記異聞録ー 

        2-3

 

 同時刻、カスパーはセマと共にアデンの貧困街の外れにいた。

 二人の前に建っている一軒家はこの周辺のどこにでもあるくたびれた造りで、誰かが住んでいる気配はなかった。

 「数年前までは老婆とその孫の青年が住んでいたらしいんだけど、今は廃屋になってるらしい」

 古本屋に日記を持ち込んだ人物を辿った結果、この廃屋にたどり着いたカスパーがセマを呼び出したのだ。ちょうど手が空いたところだったセマが夜明け前にも関わらずに駆けつけてくれた事にカスパーは素直に感謝した。

 「少し薄気味悪い感じがするけど、特に変わった感じはしないわね」

 うん、と答えてカスパーは家の扉に手をかけた。

 ほんの少しだけ力を入れて手前に扉を引く。

 瞬間、内側から何かが押し出されるような勢いで、扉が勝手に開いた。

 寸前で弾かれるように手を引っ込めたカスパーは目を見開く。それは、セマも同様であった。

 開け放たれた扉の内側、つまり廃屋の中から猛烈な勢いで噴出したそれは、強力な負の魔力を帯びたものだったからだ。

 普通の人ならば、多分悪寒を感じる、といったところだろう。

 魔力を扱う者達にとっては、今この廃屋の中にあるものがどのくらい危険なものなのかを知ることができる。何も知らずにこの廃屋、もしくは隣家などに住み続ければ、確実に寿命を縮めてしまうだろう。

 魔力の吹き溜まりのような場所は稀に自然に生まれる。大概は純粋な魔力が長い年月をかけて蓄積されたり、災害などによって周辺の環境に急激な変化が訪れた場合に発生する。そういった場所には魔力の結晶化した魔石や、精霊の力が加わった神の遺産と呼ばれる鉱石が誕生しやすい為、研究者や魔法使いには重要な場所と言える。もちろん、人為的に吹き溜まりを作る事も理論上は可能であり、その研究は今も続けられているのだが、まだ完全に解析されたとは言い難い。

 しかし、今の廃屋の中にあるものは明らかに人為的にこの場所に、しかも邪な思惑をもって仕掛けられている事を負の魔力が証明している。しかも、扉を開けるまでその存在を感知されないようにする技術を、仕掛けた人物が持っているのだ。

 静かにセマの方を見てから、カスパーは廃屋の扉の中を改めて探る。

 手にした杖の先に明かりの魔法をかけて、照らし出す範囲をゆっくりと観察していく。床の埃を見ても、年単位で誰も中に入ってはいないようであった。

 ゆっくりと中に入るカスパーに続いて、明かりの魔法を済ませたセマも廃屋へと歩を進める。

 「少し埃を片付けるわ」

 そう言ってセマは、瞳を閉じて意識を集中させた。

 部屋の片隅に小さな渦が誕生し、周辺の埃を自らに吸い寄せ始める。

 緩やかに風が吹き去った後、二人の視線は踏み込んだ部屋の床へと注がれた。

 「これは・・・・魔法陣?」