見習い錬金術師の冒険奇譚

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 「よろしくお願いします」

 まだ若い魔法使いがブルディカに頭を下げたのは、象牙の塔の村の宿屋を出てすぐのことである。

 「こちらこそ、よろしくお願いする。えっと・・・」

 「ウィルと申します」

 蒼の皇女が万が一にと、どうしても譲らなかったのがこの魔法使いと共に行動する事であった。もっとも、今回の依頼の内容は象牙の塔錬金術師が絡んだものである。どれだけ優れた戦士であるブルディカとて、魔法使いを相手にして無事な保証はない。

 魔法使いとは、一般には体力が少なく貧弱な印象が強い。概ね、それを否定は出来ないのであるが、その反面、行使する魔法は様々な効果を発揮する。杖の先に光を宿すものもあれば、屈強の相手の命を奪うことも容易い強力な破壊力まで。だからこそ、魔法を使う者が同行していれば、対応策の幅も広がってくるのである。

 以前に旅を共にした魔法使いは、象牙の塔より天の位を授けられるほどの天才であったが、目の前の魔法使いは普通に思える。だが、あの蒼の皇女の推薦だ。只者ではないのであろう。

 二人は雪の降り続ける村を出て、その足をアデンへと向けた。脚の速い馬を用意したのも、皇女である。

 「ブルディカ殿、ひとつお伺いしたいのですが」

 「ブルディカでいい」

 少し戸惑いながら、はい、と若い魔法使いは続けた。

 「私は詳しくお話しを伺っているわけではありませんし、知りたいとも思っておりません。先だっての戦でも、私は後方支援で最後に少し参加した程度です。それでも、象牙の塔の長老タラス様より今回の依頼を成就させるのに必要だと推されて参りました。ラビエンヌは非常に賢い人でしたし、心配もしておりますが・・・彼女はまだ生きているとお思いですか?」

 ウィルの疑問はごく普通のものだ。

 行方不明となってすでに日数もかなり経過してしまっている。事故であれ事件であれ、発覚してから時間が経てば経つほど、生還の確率は減少していくものだ。

 「わからない」

 ブルディカは正直な感想を答えた。

 「が、最悪の場合であれば皇女自ら動くことはないだろう。あの方が動くということは、つまり、まだラビエンヌという人は生きている可能性が高い、ということさ」

 「そうですね、おっしゃる通りです」

 ウィルが顔を上げた。

 「彼女とは研究を競い合った仲でした。きっと彼女なら・・・」

 「それに、申し訳ないが今回は別の人を守護するのが依頼だ。そちらに集中していこう」

 緩やかに降り続ける雪の中、二人は馬を急がせた。

 二時間ほど夜の街道を南に走ると、雪の代わりに秋の匂いを含んだ微風が吹き始めた。象牙の塔の村があるオーレン地方は一年を通じて雪が降るため、火山の麓に近いウェルダン地方同様、季節感が狂いやすい。だが、そこ以外は当たり前のように四季折々の風景を纏っているのだ。

 この速度で向かえば、アデンに着くのは明日の夕刻になるだろう。

 収穫祭で大いに盛り上がってるであろう時刻である。