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 見習い錬金術師の冒険奇譚

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 魔法や魔術の世界を研究・解明する特務機関「象牙の塔」は、王国の主要な街にその研究員を配置し、王国民と接する事で魔法をより身近に感じれるようにしてきた。だからこそ、各街で起きる非日常的な事件や自然現象に関しては迅速に対応も出来ている。

 今回の案件が判明したのは配置していた研究員からの定時連絡がなかったからであるが、定時連絡といっても一日二日遅れるのは当たり前な面もあって、早期判明とまではいかなかった。

 「まったくもって、申し開きもない」

 そう言って、象牙の塔の幹部長《ディテクター》が頭を下げた。

 あははは、と笑顔を見せる事でその答えとしたのは、今ではアデン王国を治める蒼き皇女である。

 一年中雪が降る象牙の塔の村の宿屋の二階、その一室。客人が客人な為に、しばらくの間は貸切となり、二階に通じる階段の前には(とてもそうは見えないのだが)さりげなく二人の騎士が見張りをしている。

 「それが呼び出された理由だったのかい?」

 銀色の短髪に浅黒い肌、鋭い眼差しの青年が聞いた。

 「いえ、研究員が一人行方知れずになった程度であなた様を頼るわけにはまいりません。あなた様を頼るだけの理由が他にあるのですよ、ブルディカ様」

 「理由、か。それは私が闇の眷属に属する種族であることに関係するのか?」

 長い髭を縦に揺らして、無言で深く頷いた。

 「行方知れずになった研究員、名をラビエンヌと申します。彼女は配置員としての業務の他に、個人的に研究していたことがありまして。ブルディカ様は我々が神の遺産と呼んでいる魔法石の事はご存じでしょうか?」

 「四つの自然属性を司るそれぞれの神、その力に特化した魔法石の事、だったか」

 大地を司るマーブル、水を司るエヴァ、火を司るファアグリオ、風を司るサイハ。それぞれに特化した魔力を帯びた魔法石を神の遺産と呼んだのは、数百年前存在した賢者であった。それぞれを使った錬金術の研究は進み、今では様々な品物が開発され活用されている。

 「その通り。そして、それぞれの魔法石を凝縮することによって、さらに強力な魔法石を生み出すことに成功しました。属性を司る怪物達の名を冠する魔法石がそれにあたります。そこからさらに何かを生み出せないか?それがラビエンヌの研究でございます」

 「その女性が十日ほど行方知れずとなった、と連絡を受けた象牙の塔からの依頼で、王国の警備隊が捜索に出向いたのが五日前よ。そして昨日、警備隊からの報告を受けて初めてわかったことがあったの」

 皇女は、そこで言葉を区切った。

 「彼女は自らの意思で行方がわからないのではなく、何者かに誘拐された可能性が高い、という報告でございました。彼女が狙われるとすれば、完成に近づいていたあの研究以外に理由が思い浮かびませんでした」

 「その研究とは・・・?」

 「ゴーレム、フェニックス、アイスクイーン、ドレイク。その心臓と呼ばれる強力な魔法石を生成する過程において溢れ出た魔法力を融合し、これにブラックミスリルを用いて一か所にそれを定着させ、黒い血痕と呼ばれる触媒でとある素材に合成させる事で得られる結晶」

 鋭い視線が年老いた幹部長を刺すように見つめた。

 「とある素材とは、ブルディカ様の種族のみが扱えると言われる皇帝の石」

 まさか、とブルディカがその続きを口にした。

 「・・・グランカインの涙、なのか・・・・」