2017-01-01から1年間の記事一覧

見習い錬金術師の冒険奇譚  2-1

普段は昼まで寝ているのがざらなのだが、その日に限って目が覚めたのはまだ明け方だった。彼女にしては珍しいを通り越し、極めて稀だといえる。 朝鳥さえ鳴き始める前、人影もない小さな広場に足を向けたのも気紛れに等しい。 中央にある小さな噴水は、造り…

見習い錬金術師の冒険奇譚

1-4 夜更けの暗がりの中、高く聳える城壁の外側に沿って影が三つ、中央に燃える焚火を囲んでいた。三人で囲むには小さな火であるのは、あまり目立ちたくはないからか。 影のうちの一人が手にしていた小さな紙片を、目の前の焚火に放り込んだ。 「今のとこ…

 見習い錬金術師の冒険奇譚

1-3 「よろしくお願いします」 まだ若い魔法使いがブルディカに頭を下げたのは、象牙の塔の村の宿屋を出てすぐのことである。 「こちらこそ、よろしくお願いする。えっと・・・」 「ウィルと申します」 蒼の皇女が万が一にと、どうしても譲らなかったのが…

 見習い錬金術師の冒険奇譚

1-2 それが何を意味するのか。 この部屋にいる三人の中で最も理解しているのは、ブルディカだけであった。 やはりご存じで、と象牙の塔の幹部長が言った。 「皇帝の石、と呼ばれるそれは、あの場所で採掘される闇の石を究極まで製錬したものと聞きます。…

 見習い錬金術師の冒険奇譚

1-1 魔法や魔術の世界を研究・解明する特務機関「象牙の塔」は、王国の主要な街にその研究員を配置し、王国民と接する事で魔法をより身近に感じれるようにしてきた。だからこそ、各街で起きる非日常的な事件や自然現象に関しては迅速に対応も出来ている。…

 見習い錬金術師の冒険奇譚

序章 キャサリンの店の周囲にも、明日に迫った首都の収穫祭の出店が立ち並び始めていた。今年はしばらく見なかった果物の飲み物の露店も復活するらしく、どの辺りに店を構えるのか注目を集めている。 この夏に起きたアデン全土を巻き込んだ出来事は、その季…

雪原の大賢者 ーアデン戦国記異聞録ー 

2-4 埃の下から現れたそれは、素人目に見てもそう判断できるものであった。 魔法陣ー未だその全ては解明に至ってはいない。特定の魔法や魔術の効果を増幅したり、継続時間を延長したりする他、異界の存在をこの世界に召喚する際に使用される。崇める神や目…